三島由紀夫『青の時代』(新潮文庫)


・文庫もハードカバーも含め、三島の本がずらーっと横浜ルミネの有隣堂に並んでいたが、いったい何が起きたのか?ブームなのか?それとも右傾化の兆候なのか?(←まさかね)。


・と言うわけで、前から読みたかった『青の時代』を購入。で、読了。んー。イマイチですなあ。三島はそもそもあまり得意ではないのだが、濃密な悪漢小説を期待していた分だけ裏切られてしまった感じが強かった。


・語り手の達観したようなコメントがとにかく鬱陶しい。甘美さも苦さも十分に噛みしめてきたという人生経験が三島にあればサマになったのだろうが、主人公の青臭さを対象化できるほどに作者もまだ熟しきっていなかった、といったところか。主人公のニヒリズムに説得力が持たせ切れていないのも、おそらくそこに原因があるのだろう。また、当時の三島にその力量があったかはさておき、ヒロインの輝子も、主人公の誠と共に高利貸しを働く愛宕も、もっとふくらみのある人物として描けたはずである。


・三島自身も失敗作と考えていたようだが、モデルとなった事件自体が非常に興味深いのは確かだ。テーマと設定に、文庫本200ページという分量は明らかに見合っていない。



青の時代 (新潮文庫)

青の時代 (新潮文庫)