読了本


菊地成孔『歌舞伎町のミッドナイト・フットボール−世界の9年間と、 新宿コマ劇場裏の6日間−』について感想を書いてなかった。



・菊地がUAのバック・バンドで青山のブルーノートに出演した際、料理が給される前に店員にスノッブかましまくった様子を綴った文章が一番面白かった。その意味で、まあ全体としてそこそこ楽しめたけど、食事についてのエッセイが少ないのが不満ではあった。菊地成孔は、美味い食い物屋について、いま一番教えを請いたい人ではある。そのうち『東京人』とか『散歩の達人』とかで連載したら、楽しいだろうな、きっと。



・「グルマン・エッセイ」、というジャンルを思いついて、そこに含まれるであろうメンバーをつらつら挙げてみる。吉田健一池波正太郎田中康夫福田和也というのが思いついた。福田和也田中康夫も、そこそこお世話になっている。福田の『罰当たりパラダイス』とか、完全にグルメ本として使っているし。田中は長野に行って以降、そういう類の文章にあまり書かなくなった気がして、残念でならない。『今どきまっとうな料理店』の慇懃無礼な文章とか、楽しかったのにな。



・でもそこで田中が美味いラーメン屋として挙げてたのが、「桂花」だったのについてはどうよ、それ?、と思った。



・少しジャンルが異なるが、ホイチョイ・プロダクションの『東京いい店やれる店』も素晴らしい本だった。女の子を落とす際、料理屋に連れていくとすればどういう店をチョイスすべきなのか、という本は幾らでもあるが、最初のデートと二回目のデートで用いる店との間にどういう落差を設けて女性にサプライズを与えるか、といった類のことまでしっかりと書かれてあって、つまりはベッドに至るまでのデートの流れを総体としてマニュアル化した本で、これはかなり斬新であったと記憶する。当然、味についての御託は二の次ということになって、実にいさぎがよい。三回目のデートまでに必ずキスを済ます、というデートにおける掟も学べた。だが時としてその掟に縛られすぎてしまう自分を、三十を越した今、悲しむべきなのか慶ぶべきなのか、そこはちょっとよくわからない。