宇野浩二『蔵の中・子を貸し屋―他三篇』(岩波書店


私小説といったら宇野浩二。と思って手に取ったこの本ですが、かなりフィクション色の濃い作品集でございました。だがしかし、どれも小説として上手い。全体の構成力が特にあると思わないけど、語り口の絶妙さで、どんどんと物語の中に引き込まれていく。


■圧巻は「子を貸し屋」。巻末の自作解説によれば、作者本人としてはあまり気に入った作ではないらしいけど、いや、間違いなく傑作でしょう、これ。育てている子供(実の子ではない)を私娼に貸し出す男の話、というと陰惨な話のように聞こえるけど、登場人物の誰もが善人(これ、「近代文学」にしては珍しい人物設定だよね)なものだから、作品全体が多幸感に満ち溢れている。貸し出される子供、太一君のキャラがとても可愛い。山中貞雄の『百万両の壺』をふと思い出す。そんな感じ。オチのつけ方が意外ではあるんだが、こんな調子で物語がどんどん続いていって、いつまでも終わらないで欲しいな的な、無時間的/ユートピア的世界が物語に構築されちゃうと、ああやって終わらせるしかなくなってしまうのかな、という気がしないでもないのでした。版切れているのに、ネタバレ気にする書き方しましたけど。


蔵の中・子を貸し屋―他三篇 (岩波文庫)

蔵の中・子を貸し屋―他三篇 (岩波文庫)