今年のベスト10(書籍編)・前編
・今年はあまり新刊を読んでいないのですよ。再読を含めて今年読んだ本を選びます。一位以外は順不同。で、一位以下は明日発表します。
①小林信彦『夢の砦』
・二段組で、確か500ページくらいある大著。それでも一気に読みました。青春小説かくあるべし、って感じの名作。小説を、文字通り寝る間を惜しんでのめり込んで読んだのは、水村美苗の『本格小説』以来だった。
・ここで話は急に飛ぶ。今僕が「現代小説」で読みたいのは、以下のようなストーリー。
・平凡な大学生が、ふとしたきっかけで学生向けの起業セミナーを主催するサクールに入る。最初は地味なポジションにいた彼だけど、ひょんなことから大きなイヴェントを仕切ることになる。仲間や、ヒロインの女の子(高校時代にモデルをやっていた)たちの助けもあり、そのイヴェントは大成功する。そのイヴェントが終わった後、ヒロインの女の子は彼に急接近し、二人は一夜を共にする。今、自分が絶頂にいることに喜びに満ちた気持ちになる彼。だけれども、この後に何もかもを失う不安が、彼の胸を過ぎらないのでもないのだった。そして事実、彼はイヴェントを協賛してくれた企業(どうも怪しげな感じ)との金銭的なトラブルがきっかけとなって、坂道を転げ落ちていくことになる・・・。
・大学生のやっているブログをたまに覗くと、こういう物語が発生する培養地のようなものが結構あると思うんだ。バブル期のように、やたらと景気よさげな奴が結構いる、と言うか。だったらそこらへんを舞台にした「青春小説」が凄く読みたい。レス・ザン・ゼロよ再び、ってわけじゃないけど、引きこもり童貞男やメンへラーちゃん女子を主人公にした小説はもうマジでイラナイよ。仲間達と何かを成し遂げる喜びとその後の別れを描いた、ストレートな青春小説って、鈴木清剛の『ロックンロール・ミシン』以降で何かあったかな?最近の若手の作家は、ホント、想像力の使い方を間違っているとしか言いようがないんじゃないか。
・そんな僕の欲求不満に応えて、おつりたっぷりなのがこの『夢の砦』だったわけだ。六十年代の東京を舞台に、今まで手にすることの出来なかったものを手にする喜びと、残酷なまでに全てを失っていくことによる喪失感が、あますことなく描かれている。「都市小説」(これも現在の若手小説家が、もっと書くべきジャンルだ)としてのスタイリッシュさにも、心から感嘆した。ここまで褒めておいて、なのですが、この本は絶版なのですよ(笑)。オイラは神田の古本屋で手に入れたんだけど、ネットでも簡単に探せるはずだ。
- 作者: 小林信彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1983/10
- メディア: ハードカバー
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