亀田大毅戦について。

・例の12ラウンドをyou tubeで見ましたよ。


・ボクシングとしてはグダグダなんだろうけど、会場に漲った殺気が素晴らしい。声援とか盛り上がり方とか、客が完全にトランス状態だよ。もちろんリング上もハイテンション。最初倒された時の内藤選手は余裕の表情なんだが、亀田弟にエクスプロイダーかまされて、それから何度もリングに転ばされて(投げろ!っていう亀田セコンドの叫びとか聞こえて爆笑)、で、終了ゴングが鳴ったあとに一度セコンドに戻ったはずの内藤が、亀田陣営に襲いかかろうとするあたり(だが自身のセコンド陣に抑えられる)とか、いやあ。良いものを観たなあ。


・殺気によって背筋に走るゾクゾク感が、何かを思い出した。99年1月4日の東京ドームからはじまる、新日本プロレス「小川×橋本」の戦いだ。藤波のダメっぷりレフェリーを挟みつつ、「負けたら即引退スペシャル」へと続く、異様なテンションの高まり。あそこまでプロレスが外部を巻き込みながら熱を持った時期は、ちょっとないんじゃないか。だって、「巻けたら即引退スペシャル」って、ウィキで調べたら、瞬間最高視聴率24パーセントだったんだよ。ありえなさ過ぎ。


・今にして思えば、「小川×橋本」に対する盛り上がりというのは、プロレスが、プロレス自らの手によって、これまで築き上げてきたプロレスの枠組みを一気にスクラップしたことへの熱狂だったんだと思う。小川の橋本の頭へのマジ蹴りを見ながら、カメラマン蹴っ飛ばしながらリングに駆けつける長州の姿を見ながら、はたまた繰り返されるSTFによって立てなくなった橋本に「立ってくれ!」と涙ながらに絶叫した辻アナの声を聞きながら、プロレスが踏み込んではいけない禁域へと入り込み、徹底的な自壊を行っていることへのカタストロフを、僕は感じていたのだと思う。だから、あの試合以降、僕がプロレスにそんなに入り込めなくなったのだ。だってこんな盛り上がり、二度とあるはずはないんだもの。


・今回の試合がボクシング界に及ぼす影響も、そんなあたりじゃなかろうか。結局「亀田祭り」というのは、ボクシングの枠組をボクシング自身でぶっ壊したことのカタストロフであって、それ以上でもそれ以下でもなかったんじゃなかろうか。今後、枠組みはもうぶっ壊れたんだから、もう二度とこの熱狂は来るはずはない。プロレスの辿った隘路を、同じようにボクシングも辿るんじゃないだろうか、と。


・だから数年後のボクシング界についての予言は、ですね。「ボクシング黄金時代復活を目指して」みたいな感じで、今の新日本プロレスで言えば、棚橋と中邑あたりのクラスの選手の戦いを無理矢理盛り上げたり、微妙なグラビアアイドルを解説席に座らせ(新日本が乙葉に「蝶野さんが好きです」と言わせたように・笑)たりと、今とは違った寒々しい光景が展開されるのではないのか、と。いやそれはそれで良いんじゃない。しかるべき時にしかるべき形での「終わり」が迎えられないグタグダ感って、僕は結構好きだったりする。ドラゴン藤波的グダグダ世界、とでも申しましょうか(笑)。


・なんてこと考えていたら、「小川×橋本」戦を見たくなったんだが、you tubeにはなさげ。残念っす。ただ、2001年のゼロワン旗揚げ戦「小川&村上×三沢&力皇」はあった。恥ずかしながらはじめて観ましたよ。いやあこれはこれで素晴らしい。試合が発表されたとき、「力皇っすか?」って思って、「あ、力皇は噛ませ犬ってことね」と思ったものですが、全くそんなことなく、力皇は四人の中でベストの動きをしている。実況解説が元『ゴング』の金沢と吉田秀彦だというのも、今にして思えば含蓄があり過ぎる。