新日本G1雑感

・蝶野、川田、藤田、中村。この四人が準決勝に残ったと知ったとき、そして準決勝のカードが蝶野-中村、川田-藤田と知ったとき、決勝までのシナリオ(この言い方微妙だな。はっきりブックと言おうか・笑)は次のようなものだと予測した。


・準決勝○蝶野-×中村 ○川田-×藤田
 決勝 ○蝶野-×川田


もしくは


・準決勝○中村-×蝶野 ○藤田-×中村
 決勝 ○中村-×藤田


・この予測の際に拠って立ったのは、「どういう物語を決勝の勝者に語らせるか」という観点である。中村が藤田に勝って「中村が外敵から新日本の牙城を守った!新世代のリーダー誕生!」という物語になるか。もしくは、蝶野が川田に勝って「蝶野が外敵から新日本の牙城を守った!*1亡くなったばかりの橋本のために!」という物語になるか。今回の決勝トーナメントの組み合わせを見て、この二つの物語しかないと思ったのである。その結果としての予測である。決勝の勝者の「物語」から逆算する形で勝負の流れを考えた、というわけだ。


・決勝が中村-川田という組み合わせになるのはまずないだろう。「外敵から新日本の牙城を守った」という説話にカタルシスを孕ませる効果は、川田より藤田の方が圧倒的に高いからだ。藤田-蝶野の組み合わせもないだろう。これはもうなんと言うか。「政治」的な問題として。いやもちろんそれはそれとして大きな理由なのだが、と言うより、蝶野が藤田に決勝で勝って「橋本!聞こえるか!アイアム蝶野!」っていうのはアリといえばアリではあるんだけど、蝶野と藤田のファイトスタイルの相違を考えると、試合が退屈になり過ぎてしまって、試合のプロセスと興行側が観客に与えようとする試合後のカタルシスとがあまりに見合わないことになりはしないか、という危惧を覚えたわけである。


・で、今年のG1決勝リーグは蝶野が藤田を倒すという結末を迎えた。これは本当に思いもつかなかった。そして僕の危惧をきれいになぞる形で事態は進んでしまったのだった。すっげーつまんない試合だったよ。なんだこれ。そして、試合後に国技館を包んだ橋本コールのなんとうすら寒いこと。「結局キミたちの見たいものってコレなんでしょ?ハイハイ。途中の過程はまあどうでもいいっしょ?まあこっちも頑張ったんですけどね〜。でもね〜。藤田と蝶野で決勝やらせちゃ試合はこうなっちゃいますよ〜。まあそこはそこで。じゃあ仕方ないですね〜。「爆勝宣言」ちゃーんと流しますからご勘弁下さい〜。盛り上がって〜。ハイハイ。盛り上がって〜。」みたいな感じで、ハナクソ穿りながらオーディエンスに快楽を与えようとしているように邪推されてならない。というか、そう邪推しろってもんだろう。この展開は。


・彼女はとても美しい。彼女の周りにいる男は誰だって彼女と寝たいと考えている。気品の溢れる美しさの中に、ほんのちょっとだけ魔性のスパイスを効かせた雰囲気を漂わせたその彼女と、なんと僕はデートに漕ぎ着けたのだった。けど、デートの最中ブーたれたことばかり言ってくるし、なんとか繰り出す僕のジョークにも彼女はちっとも乗ってこない。ちょっと頑張って値の張るお店をせっかく予約したのに、ちっとも美味しく感じられないのはどうしてだろう。勘定を済ませて店を出ると、ごちそうさまともありがとうとも言わず、彼女は僕にこう言った。「セックスしてあげようか?」「え?」「セックスしてあげようかって言ったの」。彼女は苛立たしげにそう言った。僕の目を一切見ることなしに。


・前をすたすたと歩く彼女について行くと、そこは一軒の寂れたラブホテルだった。二時間四千円。「ここ。」彼女の声には相変わらずちっとも表情がない。「え?」僕は戸惑った。どうすればいいのだ?彼女は何を考えているのだ? もしここで彼女と寝ちゃったら僕はどうなるんだ? 僕はどこに連れていかれてようとしているのか? ちっとも想像ができない。いやつまらないことは考えなくてもいい・・・。でも彼女と寝るのならこんな所よりももっとふさわしい場所が・・・。「ねえ、こんなところでチンタラさせてさあ! 恥ずかしいじゃない!」そう言った彼女の声は明らかに怒りを含んでいた。「恥ずかしいじゃない!」彼女のその言葉は、いまラブホテルの入り口の前で立ち止まっていることじゃなくて、今日一日のことを言っているようにしか僕には感じられなかった。僕なんかとずっと一緒にいなければならなかった今日一日のことを。


・結局彼女とはセックスをした。セックスの最中、彼女は何度か声を出したけど、どの声もウソ臭かったし、何よりも彼女は、僕に抱かれながら二度ばかり違う男の名前を口にしたのだった。戸惑いの表情を僕が向けると彼女は僕を責めるような表情を返して、すぐさま顔を横にそむけた。僕が欲しかったのはこれなんだと思う。彼女と寝たいと一回も思ったことはないなんてとても言えないからだ。それは認める。でも僕が彼女と出会ってから求めていたものは本当にこれなんだろうか・・・?


・今回のG1決勝の観戦後の僕の気持ちは、こういう経験になぞらえることができる(長いな・笑)。いやまあ、長い人生、こういう経験もアリだろう(僕は今まで一度もないけど)。と言うより、現実とは結構こういうものだったりするんだと思う。程度の差こそあれ、求めるものと与えられるものがぴったりと合致することなど、決してありはしないというのが世の常だからだ。でも僕がプロレスで見たいのは現実じゃないんだよ。夢を見たいんだよ。夢を。夢をしっかりと見させて欲しいんだよ、プロレスには。

*1:ここは変わらない。「外敵」が準決勝まで勝ちあがったときのG1の説話論的必然だからだ