甘い果実〜楽天じゃない2〜

・ああしんど。がっつり働いた。やりがいのある仕事、毎日が楽しくなるような仕事。そんあ仕事ないかなあって、思わないではいられない。「ホント、この仕事やっていて、ワタシ、幸せです!」みたいな。でもね。実は僕もうすうす感づいてはいるんだ。瞳孔開きっぱなしで「ワタシ、これやっていて幸せです!」って言っている人はみんな、ちっとも幸せじゃないっていうことを。そう言わないと自我が崩壊しちゃうから、自分が築き上げたものが全て壊れちゃうから。そうならないために「自分はこれやっていて幸せです!」って、自分に言い聞かせているだけのことなんだ。


・話は少しズレるかもだけど、恋愛における末期状況って、ちょっとそんなところもある。で、その彼女に騙された挙句、結局のところ別れて、ホントに全てが崩れ去ってしまった後っていうのはホントにホントに辛いんだけど、でもそれが恋愛である限り、たいていの場合、時間がおおよそのところを流してくれるものだよね。あの時は気が狂いそうに辛かったけど、あれは良い思い出だったなあ、ってな感じで。その恋愛が絶頂期にあったときの、熟し切った果実に舌を這わせた時の感触をほんのわずかだけ思い出しながら。そして、記憶に喚起された官能に身をまかせ、ほんのちょっとだけ震えながら。


・このVTRに出てくるオバチャンたちに待っているのは、たぶんそういう甘美さじゃ決してないんだろう。そう思うと胸が痛い。こんなバカっぽい話に騙されて、同情するに値しない。確かにその通りだ。でも、そういう風に僕には言えないんだ。それはたぶん、僕を深く傷つけたあの彼女との関係が絶頂期にあった時、僕は既に「自分は騙されている」って、心のどこかで気付いていたからだと思う。でも、にもかかわらず、と言うよりも、「騙されている」ってわずかながら気付いていたからこそ、あの彼女との恋愛は眩暈がするほどに甘美だったんだと思う。そう。このオバチャンたちと同じように。